ここ数年にわたり、動画配信の産業はめざましい成長を遂げ、未だ消費の勢いは衰えていません。そのテクノロジーは全世界をつなげ、ストリーミング配信の体験をより親しみやすいものにし、視聴者はダウンロードしなくても、世界のどこからでも高品質なコンテンツを楽しめるようになりました。革新的なVRや5G、マルチビュー、超解像度画像や低遅延ネットワーク等の開発により、これまでにない充実したコンテンツ体験が可能になったのです。
新型コロナの感染防止に伴う外出禁止令が公布されたことで、動画配信サービスやコンテンツ消費の割合に上昇が見られました。Statistaの報告によると、その割合は全てのオンラインデバイスで 90% の普及率を達成しています。今日のストリーミング市場において、数多くのプレーヤーがシェアの拡大を狙う中、視聴者は固唾をのんで業界の次のビッグネームを待ち望んでおり、コンテンツクリエイターはトレンドに乗り遅れないようにしなければなりません。
こうした市場で生き残れるのは、動画収録とコンテンツ配信を最新技術で融合し、ユーザーの熱狂を得ることできる先を見据えたプロバイダーです。2022年における動画配信の技術のトレンドは、次第に効率的な動画配信や収益化モデルの活用に移行し、より充実した視聴体験も期待することができます。では、2022年の注目すべきトップ10のトレンドについて見ていきましょう。
どのように動画配信が行われているのか?
動画配信の技術は今日もなお最適化され続けています。その進歩によって、視聴者は自宅から出掛けなくてもイベントに参加し、交流することができます。私たちがメディアを消費し、事業を経営し、学ぶ方法を大きく変えたのです。
動画配信の技術はエンターテイメント、企業オフィス、宗教の集会においても必須のアイテムとなりました。今や、マーケティング、広告、企業間のコミュニケーションや動画ファイルのフォーマットによるデータ共有を通じて、最も影響力のあるメディアとなっているといえるでしょう。プラットフォーム、デバイス、及び動画配信技術が人々をつなげ、これに伴いブランドの在り方も大きく変化しています。
動画配信の技術の裏側には、使用するツールに応じた様々な手法がありますが、代表的なものは次の通りです。
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• ビデオソースをカメラで収録します。
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• 収録された動画は中継機器又はキャプチャカードを通じてエンコーダに送られ、デジタルファイルに変換されます。
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• デジタルファイル (動画) はオンライン動画プラットフォームに送られ、コンテンツ配信ネットワークを通じ、ユーザーの動画プレーヤーに配信されます。
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• ネットに接続されたデバイスを利用して、視聴者は動画プレーヤーで配信されるコンテンツを楽しむことができます。
2022年におさえるべき動画配信技術トレンドTOP10
1.一般的なストリーミングプロトコルの適用
ストリーミングプロトコルとは、動画配信のプロセスにおいて、メディアがあるポイントから次のポイントへ、インターネットを移動するために標準化された技術です。2022年以後、動画配信プロトコルの中で弾みをつけると思われるものには以下が挙げられます。
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• RTSP: リアルタイム・ストリーミング・プロトコル (RTSP) とは、リアルタイムマルチメディアストリームをユーザー側で、再生・停止・記録などの操作を制御するためのプロトコルです。ユーザーはビデオセグメントをダウンロードする前にコンテンツを制御でき、質の高い視聴体験ができます。
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• RTMP: リアルタイム・メッセージング・プロトコル (RTMP) は, インターネット上でリアルタイムでの通信をサポートするために、Adobe Systemsが開発したプロトコルです。放送など、低遅延が求められるメディアでの利用に適しています。
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• MPEG-DASH: Moving Picture Experts Group (MPEG)がAppleのHLSに変わる動画配信の標準ソリューションとして開発しました。インターネットの速度に応じて、適切な画質を選択するAdaptive Bit Rate (ABR)に対応しているため、ユーザーはバッファリングや遅延などによる中断なく快適にコンテンツを視聴できます。
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• HLS: アップル社の開発によるHTTPSライブ配信プロトコルで、コンテンツ配信ネットワークからユーザのプレーヤーにメディアコンテンツを転送します。HTML5動画プレーヤーに対応し、エンコーダからオンラインプラットフォームへメディアコンテンツを配信することも可能。
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• SRT: Secure Reliable Transport。レスポンスが速く、低遅延な上、信頼性も高いプロトコルです。公共のインターネットのような安定しないネットワークでも高品質なコンテンツを提供できます。RTMPとUDPの良い面を合わせた、今後期待される伝送技術プロトコルです。
2.没入型の動画配信
いま注目を集めている没入型の動画配信は視聴者の視点で映像をとらえ、まるで目の前の空間に実際にいるような体験ができます。作成やアクセスも簡単な360度のストリーミングやヘッドセット等の特別なデバイスを使う高度なバーチャルリアリティー(VR) など、色々なタイプがそろっています。そこにメタバースが登場し、物理的な現実とデジタル空間をかけ合わせながら、ネットの世界をさらに鮮やかで、双方向性があり、自然で、没入可能な体験の場にしています。
3.低遅延の重要性
動画コンテンツをシームレスに配信するためには、まず遅延を抑える技術が要となります。新型コロナの感染拡大の影響で、公共の安全から事業の継続、日々の活動まで、低遅延での動画配信は不可欠なものになっています。多くのコンテンツ配信サービスでは、ハイブリッド形式の配信や双方向性を保つため、2022年以降は遅延を1秒未満に抑えるという目標を掲げています。但し、接続を確保するにあたって、その配信速度は利用する配信プロトコルやネットワーク環境に左右されることになります。
リアルタイムで配信サービスを成功させるには、信号の変動、通信エラー、バッファリング等の障害が生じ、一筋縄ではいきません。スムーズな、低遅延の動画配信を提供するには、サービス事業者側で本格的なデジタルインフラを整えた環境が必須となります。GoogleのWebRTCといったプロジェクトはその技術の一例で、超低遅延機能を備え、様々なビデオ会議アプリに使われています。
4.ハイブリッドモデルの影響力
2022年以降、職場での勤務が過去のものになる日も訪れるかもしれません。ビジネスは次第に「ハイブリッドありき」の就労形態に様変わりしつつあります。小売業、教育、フィットネスやその他の新しい産業部門にもハイブリッド化の波が押し寄せ、リモートワークとオンサイトの業務の違いを曖昧にしていきます。エンターテイメントやメディア部門は、一方向の放送とリアルタイムの双方向伝送を融合し、自宅のソファから参加する代わりに、視聴パーティー等を開催することができます。ハイブリッドモデルはやがて標準化され、経済のあらゆる場面においてインタラクティブな体験を提供するでしょう。
5.動画配信とスポーツ賭博の融合
(日本においては現段階でスポーツ賭博合法化を検討中であるため、以下欧米での流れであり、日本では将来の可能性の話となります。)スポーツ産業でも、欧米では合法的なスポーツ賭博の人気は根強いですが、双方向の動画配信サービスに移行しつつあります。ゲーム市場のプラットフォームに組み込まれている技術を利用すれば、ゲームに参加し、統計資料へのアクセスが可能となり、プライムタイムでの放送にも期待がかかります。リアルタイムで遅延なくゲームの模様を届ける場合、ライブで行われるゲーム内の賭けの収益は重要です。今後、ゲームが行われる場所はもはや重要ではなくなりつつあります。それよりも、どのような手段でゲームの模様が共有されるかが大切になってくるでしょう。
やがてスポーツ賭博は良質なジャーナリズム、舞台裏等のコンテンツやゲーム前の予想・分析を網羅したマルチメディア放送局へと変化をとげるかもしれません。競馬やゴルフのようなスポーツ賭博は既にこのトレンドの波に乗っています。
6.ビデオ解析
技術の進歩により、これまでにない程の膨大なデータがやり取りされています。これらのデータを適切に分析し活用するためには自動解析が必須です。さもなければ、デジタルデータ処理作業が煩雑化してしまいます。デジタル動画配信のサプライチェーンからのデータはまさに宝の山であり、体験品質の向上、リアルタイム視聴、ターゲティング広告が実現可能になります。そのためには、あらゆるデジタル情報に対する先を見越した分析法がものをいいます。
ストリーミング配信のエコシステムでは、異なるシステム同士やサービス業者を統合し、端末間のサービスを可視化する必要があります。これに伴い、プレーヤー、コンテンツ配信網 (CDN) 及びエンコーダの一体化が求められます。業務プロセスでの通信と可視化を効率化すれば、動的なターゲット広告の配信が可能になります。
7.AI搭載のテクノロジー
人工知能 (AI) は、AI動画のエンコーディングやフィルタリングなど、動画配信事業の様々な側面に大きな変化をもたらしています。AIは学習を積み重ねるごとに利口になり、その影響力は2022年を通して飛躍的に広がると考えられています。いずれはAIベースのコンテンツの配信サービスも導入され、人間が作成したものと遜色ない高品質のAI動画も実現するでしょう。
8.デバイスに依存しない動画配信
多くのユーザーは自宅のテレビ、ノートパソコン、スマホで配信コンテンツを視聴していますが、その中でもモバイルデバイスを好む傾向が見られます。理由の一端にはモバイルネットワーク業者によるLTEやブロードバンドサービスの普及もあるでしょう。今後の配信サービスは、従来のPCだけではなく、モバイルなどの複数のデバイスとの互換性の上に成り立つことが必要です。
優れた動画プレーヤーは、タブレット、スマホやゲーム機のようにネット接続が可能なあらゆるデバイスで、ユーザーを動画にアクセスさせることができます。つまり、互換性があり、カスタマイズ可能なHTML5動画プレーヤーが標準となりつつあります。
9.人気の映像コーデック
動画ファイルを変換する際には、動画を構成する静止画像のファイルのチェックや圧縮作業が必要です。コーデックの変換作業は、ビデオファイルを整理・保存、不要なデータを破棄し、デジタルファイルの容量を減らし、ネット上で転送できるように容量が小さいコンテンツ構成にします。
動画配信に使われるコーデックには色々な種類がありますが、2022年は以下の2タイプが主流になると思われます。
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• H.264: 一般的なコーデックで、ほとんどのオンライン動画やライブ配信で選ばれています。すべてのデバイスが上記に対応しています。
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• AV1: Google、Mozilla、Ciscoを中心としたAlliance for Open Media(AOMedia)が開発したライセンス料無償の動画コーデック。2018年3月に仕様が一般公開された。H.265/HEVCと比較して同画質で30-40%のビットレート削減が可能。
10.SNSを活用した動画配信
当初、Facebook、 YouTubeやInstagramをはじめとするソーシャルメディアでのライブ動画配信のトレンドは双方向性を前提にしていませんでした。しかし、チャットアプリのおかげで、視聴者が配信側とのコミュニケーションが図ることができるようになり、双方向の通信が常態化されました。このような双方向のプロセスは、消費者や企業の間でのライブ配信の人気が高まるきっかけとなったのです。
Eコマース企業はライブ配信の価値を認識しはじめ、製品の売り込みやユーザ体験の向上のためにライブイベントを開催しています。今日の企業は、Facebook Pages Manager、 HubSpot Marketing、Zoho Socialのような最新のSNSメディア用のソフトウェアツールを利用し、SNSマーケティングを強化するよう迫られています。
まとめ
動画配信の技術はこれまで幾度となく変化し、これからも進化し続けて行きます。低遅延の配信で市場拡大の機会は十分狙えますが、技術の導入にあたり、UXやユーザーのエンゲージメントや関与を優先事項に置く事業こそが結果を生み、成功を勝ち取るでしょう。